カセットの中の先生

自分は、大昔のことだが、塾を始める前は、ほかの塾でバイトをしながら司法試験の勉強をしていた。塾のバイトは面白く、自分で言うのもなんだが、人気講師になっていた。これで塾とかが、自分の天職だと感じた部分もあった。でも田舎は、特に塾の認知度が低く、親は塾経営とかには反対だった。

それはそれとして田舎で一人でやっていても、どうしても単調になる。東京にいる知り合いの合格者に、いろいろ聞いたら、早稲田何とかという司法試験予備校の小塚先生の合格講座というのが良いという。カセットで一科目26巻ぐらいだったと思う。

それを早速注文して、聞いたら、目からうろこというか感動した。内容は、合格者が書いた答案をその先生が、添削するという内容で、その鋭さと同時に,どういう答案を書いたら合格答案になるのかがおぼろげながら分かった。面白すぎて短期間で何回も聞いた。合格者の答案もぼろくそに批判されたり、そういうのは初めてだった。

民法という科目だったが、二週間足らずで苦手意識がなくなり大好きになった。そのとき思った。こういう集中した学習のほうが力がつく。何回も聞くと分かるようになる。説明のうまい先生の授業はやり方考え方を伝えるのだと。耳学問のすごさが分かった。目学問だけでは、限界があること。二つとも大事だということ。

正直これまで感動を覚えた授業というのには、あたらなかった。学校の授業では、覚えなかった感動と急激な理解。そういうのは、このとき初めてだった。短期間でもやり方しだいでは、急激に伸びることを肌で感じた。通信で模試を受けていたが、点数が急激に伸びて驚いた。

その先生が、福岡に来られるということを聞いて、わざわざ福岡まで行った。やはり生の講義もよかったが、講義はカセットで十分だと正直思った。 それからまもなく縁あって、自分の塾を立ち上げた。27歳のときだった。

このカセットの先生に出会わなければ、今の自分の塾の指導形態は、生れなかっただろうと思う。 その先生は、そのあとずっと続けられたらしい。その予備校は最近無くなった。どうしていらっしゃるのだろうか。でも今でもその先生のフレーズが聞こえる。

ーであろうか。-が問題となる。なるほどー。しかしー。そもそもー。したがってー。

小塚一刀流、すばらしかった。 今でも感謝している。